2005年11月05日

皇位継承・・・「双系VS男系」論の底

皇室典範に関する有識者会議】が開かれるようになってから、ずっとこれに関心を持っています。
将来的にはこの会議の結論を踏まえて(国会の論議を経たのち)皇室典範が改正され、実際に天皇位の継承も行われてゆくことになるはずだからですが、最新の「第14回議事要旨」によれば、女性天皇は当然のこと、女系天皇も容認する結論が出たようですね。

なお、蛇足ながら説明しておくと「女性天皇」とはその性別が女性の天皇であり、「女系」「男系」とは父母どちらから天皇家の血筋を引いているか、の別です。「男系天皇」は父(または父の父・・・と父系のみを遡った結果)が天皇であるところの天皇であり、対して「女系天皇」とは鏡のように対称させて考えるならば母(または母の母・・・と母系のみを遡った結果)が天皇であるところの、天皇となるはずです。が、実際は過去天皇家の歴史上、女性天皇が母方からのみ天皇家の血を引く我が子に皇位を譲った例はないことから、そうした意味での女系天皇は考える必要がありません。
現代日本で話題になっている女系天皇・・・とは、非・男系天皇という意味です。したがって昨今の女系天皇容認論とは双系主義のことであり、双系主義 VS 男系主義・・・の形で、問題提起されている、ということです。



  【 双系主義とは? 】

前掲【皇室典範に関する有識者会議】の「第14回議事要旨」からまとめてみます。

<憲法について>
@憲法象徴制世襲制しか規定していない。

A「世襲だから当然に男系男子」は、理論的には難しい。

B国民が世襲制の天皇についてどう考えるかというと、男系に固執するよりも、親から子へと直系で受け継がれることではないか。

C象徴に性別はないと考えるのが健全

<天皇と憲法の位置関係について>
D女性や女系天皇に違和感を持つ国民もいるだろうが、現行憲法制定時に、象徴と世襲に絞ったことは大きな歴史の変化であり、それはそれで国民は受け入れている

E皇室典範に男系男子と規定する必要はなかったが、伝統に配慮して男系男子とした。それが、今は維持できなくなっているので、憲法に戻って考えるのが妥当。

<女系天皇の正統性について>
F世襲で皇位が継承され、国民の積極的な支持が得られる限り、正統性に疑義が生じる余地はない。

<女系天皇以外の方法について>
G皇室典範を改正しなければ、複数配偶制の否定や少子化の状況の中で、確率的には男系男子の数は極めて少なくなる。(複数配偶制=側室制度の復活は当然認められないという前提)

H旧皇族が復帰してもGの状況は変わらないため不安定なものになる。

I皇籍復帰して皇位を継承することは、国民の理解も得られないだろう。

<今後の手続き>
J今後は国民に受け入れられるよう表現などで工夫しつつ(=表現は変えても論旨は変わらない)、報告書を作成し、国会の議論を俟つ。


これを見ると、双系主義というのは、まず憲法からの解釈で要請され、次に国民の意識に合うかどうかを吟味された結果、出てきたもののようです。
天皇家の伝統は、時代によって変えてもよいもの・・・として振り返る程度の位置づけです。



  【 男系主義とは? 】

別記事【皇位継承・・・三笠宮殿下のコラム発言要旨】で資料を挙げておきましたが、この中の「寛仁さまのコラム要旨」はかなりまとまっていると思います。

要するに、125代続いた伝統をそんなに簡単に変更してよいのか、ということでしょう。
ここで提起されているのは、天皇の天皇性とはなにか、という問題です。
上記の【双系主義】との対比で考えれば、有識者会議が「F世襲で皇位が継承され、国民の積極的な支持が得られる限り、正統性に疑義が生じる余地はない」とするところを、「男系でなければ国民の積極的な支持は得られないだろう」、というわけです。

国民の積極的な支持が得られるかどうか・・・。これは考えてみるとなかなか難しい問題ですね。有識者会議では「世論調査で何割だからどう、という発想をとるべきでないという考え方」だそうです。私などは、世論調査もせずにどうやって国民の総体的な天皇観を知ることができるのか・・・という疑問も抱くわけですが、一方で、世論調査ほどあてにならないものはない、ということも理解できます。

現実的に考えれば、ここで問題になっている「支持」とは、将来仮に女系天皇が誕生したとした場合、それを「天皇と認めない」国民が何割程度いるか・・・ということでしょうね。仮定の話になってしまって恐縮ですが、女系天皇が即位したのちに、天皇家男系の血を引く御方が、そうした人々から担ぎ出され「朕こそは真の天皇なり」と宣言する・・・というようなことも、考えなければなりません。その際に、「朕こそは」の男系自称天皇を支持する国民が何割程度いるか・・・。そこをシビアに見極める必要があるでしょう。
宮内庁に世話をされ、天皇として国事行為も行っている女系天皇と、血筋のみの正統性を有する男系天皇・・・。

私の手元にはなんの資料もありませんから判断することはできません。
・・・が、将来、国家の擁する女系天皇 VS 男系自称天皇、という極度に先鋭化した形で「国民世論が問われる」事態を招く前に、綿密な国民意識調査がなされることを希望します。それが日本のためでしょう・・・。

なお私個人・・・に関して言えば、女系天皇が誕生した時点で、天皇制へ寄せる仄かなロマンは潰えるだろうと思います。私の中の天皇制は126代(現皇太子殿下)を持って終焉を迎えるでしょう。文献上の神武天皇・・・そしてさらに神話上のイザナミ尊(のY染色体)へ辿り着くことのない天皇には、古代へと通じる血のロマンを感じることができません。
ただし私は、現状においても天皇に「陛下」をつけることにさえ抵抗を感じるような心的距離感を持つ者ですから、私のような人間からの憧憬を失っても、天皇制からすれば痛くもかゆくもないでしょうね。しかしまた逆に言えば、そうした心的距離感を持つ者でさえ尊重する天皇の天皇性=男系の血筋を、このような形で失うことは日本にとって大きな損失とも言えるような気がします。

※補記(2005/11/22) Y染色体については【皇位継承・・・Y染色体の世代間連続性について】にまとめました。



  【 男女平等思想と天皇制 】

ここで私個人の立場を説明しておきますが、双系か男系かで二分するなら、私は男系維持派です。
125代続いた奇跡の伝統を自分の生きている時代に絶やすのは惜しい・・・という理由からです。おそらく・・・ですが、もしかしたら、これまでの皇室の歴史の中では当然(!?)、奥方の浮気などもあったかもしれません。それでも系図上、それは隠蔽され、表向きではあくまで神武天皇にまで遡ることができる・・・。それはやはり素晴らしい(かどうかは別にして、世界でも稀な)伝統には違いなく、努力して後世に伝えるべき日本の文化だと思います。

ただし私は、「日本の天皇の聖性はローマ法王並である」とか「天皇家は世界に誇れる家系である」とか「天皇は日本人の心の拠り所である」というような意見には、強い違和感を感じます。
私は自分が日本人であるという自意識を強く抱いていますが、「天皇を戴く国だから」という理由で日本を特別視しているわけではありません。自分が生まれ育った母国だから、私は日本にこだわるのです。その日本に天皇家という伝統があったことは幸運な偶然にすぎません。その偶然に感謝をし、できれば次代へも残したい・・・という意識です。


そういう立場から、私は有識者会議の結論を残念に思いました。
有識者会議のメンバーを見ると、岩男壽美子氏がいますね・・・。この方は国連特別総会「女性2000年会議」で首席代表を務めるなど、日本を代表する男女共同参画運動の推進者です。皇位継承のあり方を考える場に、男女平等思想からの干渉が入ったとすれば、実に残念なことだと思います。

伝統や文化(古い因習)と新しい価値観(男女平等など)とのせめぎあいは、現代では至るところで起きています。数年前にも女性知事の土俵入りが話題になりました。「なぜ女性は土俵へ上がれないの?」という疑問への回答が「伝統だから」としか言えないように、究極的には、「なぜ女系天皇がいけないの?」という疑問にも「それが伝統だから」としか、答え得ないように思います。
ただし、天皇家の皇位継承問題は、125代・・・少なく見積もっても1500年程度・・・は続いているという実績から、大相撲の土俵とは比較にならない堅固さや重みを持っている・・・というのが、普通の日本人の感覚ではないかと思います。



  【 国体と天皇制 】

ところで先も触れた【皇位継承・・・三笠宮殿下のコラム発言要旨】ですが、ここには重大なことが述べられています。
(そうでなければわざわざ私が手打ちしたりしません 笑)
引用してみましょう。


 陛下や皇太子さまは、御自分たちの家系の事ですから御自身で、発言される事はおできになりませんから、民主主義の世であるならば、国民一人一人が、わが国を形成する、「民草」の一員として、二六六五年の歴史と伝統に対しきちんと意見を持ち発言をして戴(いただ)かなければ、日本国という、「国体」の変更に向かう事になりますし、いつの日か、「天皇」はいらないという議論に迄発展するでしょう。


私は男系維持派ですから、その方法論としての旧宮家の再興にも、天皇家の養子にも賛成する立場です。もっと言えば、側室制度の復興にも反対はしません。事実上、側室制度の廃止が天皇家直系男子の数を減らした最大の原因と言えるのですから、天皇直系に限り側室制度を復活させてもかまわないと思っています。
そういう意識で、この「三笠宮殿下のコラム発言要旨」を拝見していたわけですが、最後のこの段で、ガックリ・・・というか、急速に心が冷えるのを意識せずにはおられませんでした。

日本国の国体・・・とはまた、ずいぶん古式ゆかしき死語が出てきたことです。
新聞記事によれば戦後生まれ、59歳でいらっしゃるという三笠宮殿下は本気でこのように思っておられるのでしょうか? プライベートな場で身内に語ったおつもりなら、それが本音である可能性も決して低くなさそうです。とすれば、無垢な皇族にそのような真っ赤な嘘を教えた人間の罪は、それが誰なのかは知りませんが、果てしなく重いと言わざるをえません。
三笠宮殿下のコラムの中にはわざわざ「八木秀次」氏の名前が挙げられています。この八木氏の男系維持説には、私も賛同する立場ですが、その一方で、【「新しい歴史教科書をつくる会」会長】という肩書きに一抹の不安も抱いていました。もしや皇族方は、学問としてではなく、まさに現代政治そのものとしての歴史にかかわっているのではないか・・・と。その予感が、まさかこんな形で的中してしまうとは・・・!

残念ながら、先の敗戦により、日本の国体はすでに変更されているのですよ、殿下

日本国は天皇主権から国民主権の国家へと、国体を変更したのです。
これが史実です。(国体についてはこちらをどうぞ)

万世一系は天皇家内部の歴史であり、日本という国家にとってはあくまでも文化・伝統の範疇の問題にしかすぎません。天皇は象徴であって国体ではないのです。
この大前提の下、私は、文化・伝統として天皇家や象徴天皇制を理解し、その上で、男系維持に賛成しています。文化・伝統だからこそ、それを尊重したいと思うのです。

けれども皇族方が「日本の国体は天皇である」と考えておられるとするならば、私は天皇制そのものを許容できなくなるでしょう。国体としての天皇は、それが男系であれ女系であれ、日本には微塵も必要ありません
皇位継承問題に関心を持つ人は、その原点を忘れてはならないと思います。



  【 文化・伝統としての象徴天皇 】

私が、皇位継承問題に関心を持った中での一番の収穫は、天皇を国体として捉えている日本人が現代にもいる・・・事実を知った、ということかもしれませんね。
現代日本の闇は深い・・・。

最初に有識者会議の「女系容認」の動向を耳にした時、私は「125代分の伝統をどう考えているのか」と憤慨したくなったものですが、天皇を国体として考える人々が今も現に存在することを知ってからは、憲法国民に立ち戻ろうとする有識者会議の考え方にも理があることを実感しました。

もっとも、国民のひとりとして、私は男系維持を希望しているわけですから、有識者会議にはやはり国民の意見を重視して欲しいものだと思います。その結果、125代続いた天皇家の歴史を新しい価値観で塗り替えてもよい・・・と思う国民が多数を占めるならば、私はその意見に従おうと思います。
ニッポニア・ニッポンであったところの美しい白鳥(しらとり)・・・トキも絶滅しました。男系天皇もまた、同じ運命を辿るのかもしれません。

ただし政治動向から考えてみると、有識者会議の報告書は国会にて審議されるわけですから、「有識者」よりは世論動向に敏感な、しかも「神の国」発言をした森元首相率いる派閥が最大であるところの自民党が単独過半数を占める議員達の審議によって、実際の皇室典範改正までには方針が変わる可能性も残っています。
この時に、天皇は国体なりのような妄言が出ないことを祈るばかりです。

そしてさらに、天皇家の皇位継承問題を文化・伝統を重んじる立場から、もう一度考えてみると、これは結局、「彼ら」の問題なのだ・・・と、私は思うようになりました。
皇位という家督がある・・・それを誰に継がせるべきか・・・という問題は、本来は、その家に属する人々が決めるべきことなのではないでしょうか。そこへ国家が、象徴だ国体だ・・・と口を挟むから、おかしくなるような気がします。
自由に相談し、決めてくれればよい・・・。浮気の結果の庶系だろうが養子縁組した跡取りであろうが、彼らが親族会議を開いて納得した御方を、国家も国民も、天皇として受け入れたらよいと思います。
そしてその方法なら、女系天皇は決して誕生しないでしょう。

実際には憲法や皇室典範の規定などがあるのは承知しています・・・。が、ということは、逆に象徴天皇制を放棄してしまえば、男系天皇は維持できる・・・のでしょうね。


※補記(2005/11/22) Y染色体については【皇位継承・・・Y染色体の世代間連続性について】にまとめました。
posted by 水無月 at 04:24| Comment(5) | TrackBack(3) |   ◇皇位継承問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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