2005年11月22日

皇位継承・・・Y染色体の世代間連続性について

※(2006年2月18日 補稿しました)

皇位継承問題に関して、男系維持派はしばしばY染色体を持ち出します。
かくいう私もそうですね(笑

先に述べた【皇位継承・・・「双系VS男系」論の底】の中で、私は次のように書いています。

なお私個人・・・に関して言えば、女系天皇が誕生した時点で、天皇制へ寄せる仄かなロマンは潰えるだろうと思います。私の中の天皇制は126代(現皇太子殿下)を持って終焉を迎えるでしょう。文献上の神武天皇・・・そしてさらに神話上のイザナミ尊(のY染色体)へ辿り着くことのない天皇には、古代へと通じる血のロマンを感じることができません。


つまり私が男系維持を希望するのは「血のロマン」を感じるせいであり、それを具体的に表すのがY染色体だというわけです。
(※2006/2/18補記 引用文で「私個人は」と断っている通り、「血のロマン」という話が通用するのはあくまで個人のレベルの話だと思います。本エントリの主題は「Y染色体の世代間連続性」という事実をわかりやすく説明することですが、その世代間連続性にロマンを見出すかどうかは個人個人でご判断いただけばよいことです。
ただし、単なる個人でなく、一国民、一日本人の立場から社会論、天皇論として皇位継承問題を考え、かつ論じる際には、「血のロマン」は「日本の天皇家の伝統」に置き換わるでしょう。天皇家の伝統や、それを支えた祖先の意思があったからこそ、「Y染色体の世代間連続性」という事実から初代天皇のY染色体なるものが予想され、今になって話題になるのですからね。天皇家の伝統がまずあり、Y染色体はあとから導き出されるものなのです。
繰り返しますが、初代天皇のY染色体に個人が「ロマン」を感じようが感じまいが、皇位継承問題の本筋からすればどうでもよいことです。しかし、私が勝手に感じ取った「ロマン」を生み出す母胎となったところの天皇家の伝統、歴史、それを支えた祖先達の意思・・・は、社会論、天皇論、あるいはもっと広く日本国は今後どうあるべきかという国家論の場面でも決して軽視してよいものではないと考えます。天皇家の伝統や文化や歴史をどのように捉え、解釈するか、が、皇位継承問題を考える上でも重要なポイントとなっているはずですから。ちなみに一国民、一日本人としての私の見解は、125代分の伝統を重視すべきである、というもので、当エントリの最後の【まとめ】で述べてあります。
皇位継承問題の本筋からすれば瑣末なものにすぎないY染色体ですが、だからといって「Y染色体の世代間連続性」を説明する当エントリの存在意義がないとは思いません。日本人の中には、私と同様、初代天皇のY染色体という概念に「血のロマン」を感じる方もいるでしょうし、そもそも減数分裂の仕組みを知らない、という方もいるでしょう。私が自ら調べて得た知識をネット上に公開することは、そうした方々の知識欲を満たす一助になれるだろうと思うからです)

しかしどうも、中には遺伝の仕組みを知らずに議論をしている方もいるようです。「XとかYとかはよくわからないけれど」「125代の間にはどうせ様々な血が混じっているのだし」「万世一系なんて意味ないんじゃないの?」という認識の方には、どうやら遺伝の仕組みを理解してもらうのが一番だと思います。

が、はじめは専門家の説明を探し、適当にリンクして解説すればすむ程度の話と思っていたのですが、どうやら見当たらないのですね(汗)。あれこれ検索するより自分で描いたほうが早いと思い、急遽下手な図を用意しました。
なお、私は生物学は高校の授業で習った程度です。減数分裂については、ミトコンドリア・イブ仮説が話題になったころにひと通り理解し、Y染色体の世代間連続性については『アダムの呪い』ブライアン サイクス (著)で、納得しました。その程度の知識しかない私の説明ですから、もしかしたら間違っている箇所もあるかもしれません。誤りにお気づきの方はどうぞご教示くださいませ。



【 血は混ざってもY染色体は混ざらない 】

それでは今から遺伝の仕組みを説明します。まず、下の図をご覧ください。


◇ 【図1 細胞核の中の染色体イメージ】

   dankei_11

人間の細胞はすべて23対46本の染色体を持っています。染色体はもとから染まっているわけではないようですね。細胞核の中身をなにかの染色液で染めた時、くっきり染まって顕微鏡での観察も容易にできるもの・・・それが染色体です。そしてその中に遺伝子が入っています。

染色体46本は普段はバラバラの状態で核の中を浮遊していますが、生殖細胞(精子・卵子)を作るための減数分裂をする際には、独特の動きを見せます。46本が2本ずつ寄り添い、対になるのですね。男女がペアになってワルツを踊るように。ここから、46本は23対であることがわかるのです。

そして23対の染色体は、22対の常染色体と、1対の性染色体に分けることができます。つまり44本の常染色体と2本の性染色体です。これをイメージに表したものが上記の図1です。赤いのが性染色体で青いのが常染色体です(図1ではG1〜22で表しました)。

図1を今後の説明でわかりやすいように整理してみたいと思います。
生殖に関わる減数分裂時、常染色体の動き方は22対で共通しています。しかし性染色体だけが異なる動きをします。そこで、22個の同じ絵を描くかわりに、以下では「×22対」と表すことにします。
一方で性染色体ですが、まず、これが人間の性別決定に関わっていることをご理解ください。
性染色体にはXと呼ばれる長いものと、Yと呼ばれる短いもの、二種類があります。そして一人の個人の各細胞の中にある染色体セットのうちの性染色体が、XとXの組み合わせであれば女性、XとYの組み合わせであれば男性、なのです(なお、稀に遺伝上の性と、肉体上の性、または精神上の性、などが一致していない場合もあります。が、その問題はここでは割愛させてもらいます。本稿のテーマは皇位継承問題ですから)。

すると以下のようになります。

◇ 【図2 性染色体から見た男と女】

    dankei_12

この中では男と女、それぞれの染色体セットのイメージを描きました。今後この男女の間に子供が生まれることを考えますので、そのまま父と母になります。

しかしこの男女の染色体は、実はそれぞれの父母(つまり今から誕生する子供にとっては祖父母)から、それぞれ受け継いだものなのです。父母もまた、もとは、それぞれの父母の精子と卵子が受胎した結果、誕生した子供なのですからね。人間の染色体が23対であるとは、23本を父から、23本を母から、受け継いだということなのです。
これを図に表してみます。


◇ 【図3 父と母の染色体は祖父母から受け継いでいる】

    dankei_13

色で区別してみましたが、おわかりでしょうか?

ではいよいよ赤ちゃん誕生までの減数分裂の様子を辿ってみましょう。


◇【図4 減数分裂から誕生まで】

    dankei_hokou.PNG

(上の図で、わかった! という方は、どうぞ↓の【 まとめ 】まで読み飛ばしてください)

生殖は精子・卵子の製造からはじまります。
最初は通常の体細胞と同じ染色体だったものが、まず、複写されて2倍に増えます。この複写はDNA鎖を解き、単独になったそれぞれの鎖に、例のグアニンにはシトシン・・・という具合に適合する塩基がくっつくことで果たされます。このあたりの詳細な説明は省きます。

こうして2倍になったのですから、核の中には23対×2の46対、92本の染色体がひしめいていることになります。
するとこの46対が、次にはそれぞれの対単位でくっつくのです。23対だったものが倍に増えた状態で、なおかつペアとくっつくのですね。この際にはペアを探すような面白い動きが見られるそうです(が、私はあいにく実際に顕微鏡で見たことはありません)。

そうしてくっついた2対(4本)の間で、次には遺伝情報の交換がなされます。つまり祖父由来の遺伝子と祖母由来の遺伝子とが、その子が体内で精子・卵子を作る段になってはじめて、文字通り交わる(混じりあう)わけです。
これはどうやら物理的に、DNA鎖の一部がちぎれて、相手の同部分と交換される形で起きるようですね(私の理解では)。なんともダイナミック(というか乱暴というか 汗)で、呆れてしまいますが、そういうもののようです。こうした遺伝情報の遣り取りをするメリットは、それぞれのDNA鎖の不備や欠損を補うことができる、ということだそうです。

また同時にこの時、どの部分が交換され、あるいは交換されないか、は完全に偶発的でランダムであるため、結果として交じり合い方は毎回違ったものになります。これが、それぞれ膨大な長さのDNA鎖であるところの46対(または44対)について起こるので、結果的には一人の人間がつくる精子や卵子のどれひとつとして、同じものはない、ことになります。人間の遺伝的個性(両親が同じ兄弟であっても身長が違うなど)はここに由来しています。

さて、以上は常染色体の話ですが、実は性染色体だけは違った動きをします。
性染色体のX染色体とY染色体だけは、寄り添うところまではするものの、遺伝子交換をすることができないのです。
したがって、女性体内の減数分裂(卵子を作るための)では、ほかと同様にX染色体とX染色体がくっついて情報交換をするのですが、男性体内の減数分裂(精子を作るための)では、X染色体とY染色体はそれを行わないのです。
ほかの染色体が(情熱的な?)遺伝子交換をしている間、X染色体とY染色体は慎み深く身を寄り添わせ、じっと仲間の用事が終わるのを待っています。そして仲間の染色体がすっかり満足しそれぞれのペアから離れる頃、X染色体とY染色体も永久の別れを告げるのです。(※2006/2/18 補記後述)
こうして遺伝子交換をしたあとで、それぞれの染色体は、元が祖父由来だったもの、祖母由来だったものとに分かれ、一度細胞分裂します。
この時できる細胞には(最初に複写されているため)普通の体細胞と同じ23対の染色体が含まれます。ただし、その中身は祖父由来、祖母由来に弁別され、なおかつ(精子の性染色体をのぞいて)遺伝情報を交換したものとなっています。

この細胞がそれぞれ、そのまま二度目の分裂をすることによって、精子、卵子へと成長するのです。


ここまでの説明で、Y染色体が父から息子へ、ほかの遺伝子と交わることなく受け継がれることがおわかりいただけると思います。


※2006/2/18補記 先日、当エントリへのコメントにて、Y染色体とX染色体も交叉(遺伝子交換)をする、というご指摘を頂きましたので、もう少し詳細に説明します。
X染色体とY染色体も、実際には遺伝子交換をします。ただしそれは、常染色体の場合のように、染色体全体において、ランダムに行われるわけではありません。X染色体とY染色体では大きさがまるで違うため、それは不可能なのです(したがって長い間両者は交叉をしないと考えられてきました)。
X染色体とY染色体の交叉は、毎回決まった場所=両染色体の先端部でのみ、行われます。大きいX染色体が小さなY染色体にあわせて曲がり、常染色体のように時間を掛けてではなく、短時間で先端部のみ遺伝子交換をする、と考えられます。
(ハエの減数分裂を観察したブライアン・サイクスの言葉を借りれば「ほかの染色体が親密に絡み合っている一方で、X染色体が先端をくるりと曲げて、ほんの一瞬、この小さな染色体の先端に触れたのだ。ほかの染色体が長い抱擁を交わしているとすれば、こちらは頬にちゅっとキスして程度の触れ合いだった」『アダムの呪い』71P)
遺伝子交換が先端部以外で行われる、ということはこれまで(遺伝病のケースを除けば)報告されていません。したがってY染色体の先端部を除いた部分は、父系遺伝を調べるマーカーとして、母系遺伝の場合のミトコンドリア同様、様々な分野で活用されています。遺伝子交換が行われる先端部分は染色体全体からすれば限られたごく一部であり、またXとYとで遺伝子交換が可能な、つまり性差に関わらない部分である、こともわかっています。
Y遺伝子とは広義にはY染色体に含まれる遺伝子、のことですが、上記のような理由から通常は「Y染色体のうち遺伝子交換が行われない部分に含まれる遺伝子」の意味で用いられています。「遺伝子交換が行われない部分」がY染色体に存在する、ということに大きな意味があるからです。とりわけ父系の世代間連続性が話題となる場面での「Y染色体」あるいは「Y遺伝子」は、X染色体との遺伝子交換をしない部分のY染色体や遺伝子に注目している、ということを、補足説明させていただきます。
以下の【まとめ】でも、そうした意味で「Y染色体」「Y遺伝子」という言葉を用いています。




【 まとめ 】

男系維持派がY染色体にこだわる理由は、ひとえに、上に述べたような遺伝の仕組みからです。
(2006/2/18補記 Y染色体にこだわる理由は遺伝の仕組みからですが、男系にこだわる理由が遺伝の仕組みやY染色体にある、というわけではありません。どうやらこの一文を読み違える方が多いようなので、あえて補足しておきます)
世代を重ねるにつれ、遺伝子は交じり合います。125代も経た後では、1/2の125乗ですから、初代天皇の血など、あってなきが如し・・・のようなものでしょう。
それでもY染色体だけは、一度たりともほかと交わることなく、ここまで受け継がれてきた・・・のです。
翻って、上の【図4】の「父」と「母」を現皇太子殿下・妃殿下と置き換えてみると、内親王愛子様の遺伝子がどうなっているかも視覚的にわかると思います。
とりわけ、愛子様の性染色体に関して言えば、母の雅子様と祖母の美智子様から受け継がれたX染色体の遺伝子を持つだけで、天皇家由来のものなど一塩基も入っていません(もっとも、私は男系女性天皇に反対する立場ではありません。ただ、その次の世代が問題だと考えています)。
男系維持派が、天皇の天皇性とは、と問題にするのは、上記のような背景があってのことなのです。

このように書くと、女系容認派の方々は、もしかしたら次のように言われるかもしれません。
これまでの天皇家の歴史の中で、本当にほかのY染色体は入っていないのか!? と(苦笑
遺伝的側面を強調するなら、このような疑問が出るのはもっともなことです。
仮定の話なら言い放題とばかり、では現存の天皇家由来の男系男子(大昔に天皇家から臣下へ下った公家や武家の跡取り息子達まで加えれば何千、何万人いるかわかりませんが)の遺伝子チェックをしてみよう、とまで言い出す人もいるかもしれません。そこで天皇家由来の男系男子のはずの人々のY染色体遺伝子に多種の系統があったらどうするのか、と。

私は、これに対しては次のように答えたいと思います。
文献上の直系(今上天皇)のY染色体の遺伝子こそが、初代神武天皇の遺伝子なのです、と。
なぜなら、文献上、天皇家はこれまでずっと、男系相続できたからです。
考えてもみてください。すでに過去のものとなってしまった文献上の正統性を覆す証拠など、現代では誰にも提出し得ない・・・でしょう。
たとえ天皇家由来の男系男子Y染色体に多種の系統があったとしても、今上天皇のY染色体以外のものは、その枝分かれしたあとで、ほかのY染色体に置き換わったと考えるだけのことです。

そして文献上、ここまで系図を必死に確保してきた家柄は、日本では天皇家をおいてほかにはありません。
これは誰しも認めるところでしょう。

さらにそして、ですが、では、なぜ天皇家の系図はここまでしっかりと記録されているのでしょうか? それは紛れもなく、代々の天皇家の人々が(おそらく一般の日本人も)男系相続を続けてきた天皇家の系図を保存しよう、保存しなければ、と125代の永きに亘りずっと、願い、努力してきたからではないでしょうか?

遺伝子の概念が出てきたのはつい最近のことです。けれどもそんな概念などない時代から、天皇家は男系相続を続けてきました。そこには確かに、皇位は男系で相続されるべきもの、という人々の意思があったはずです。

私が男系維持に賛同するのは、それだけの年月を経て降り積もった、無数の人々の意思、その願いと努力の重さに、畏れ(おそれ)を抱くからです。
伝統の重みとは、そうしたものでしょう。

125代に亘って継続されてきた伝統そのものに、私は畏怖の念を抱いています。


女系容認の立場の方々には、男系維持派がY染色体を持ち出す背景にある、伝統への畏怖や敬意、といった思いまでをきちんと受け止めたうえで、議論して欲しいと思うのです。


posted by 水無月 at 02:59| Comment(33) | TrackBack(0) |   ◇皇位継承問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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