2005年12月09日

偽装事件は小さな政府を大きくするか?

耐震強度偽装問題・・・。連日さまざまな報道がありますね。
ただ資料をまとめるだけでは片手落ちでしょうから、今時点での私の雑感を記録しておきます。
とはいえ、この事件に対する私の関心は、今では主に、建築確認業務を民間検査機関に任せることの是非、に絞られてきています。



【 建築検査 】

建築確認を民間に任せることは、昨今の(小泉氏が強力に進める)「小さな政府」「官から民へ」の政策から言えば当然の流れですが、公による検査と民による検査ではどの程度の違いがあるのでしょうか。もし、建築確認業務が民に開放されていなかったなら、今回の事件は起きなかったのでしょうか。

そこで私は、姉歯建築士の偽装を、国土交通省発表の資料から時系列で調べてみました。
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/07/071208_3_.html

平成10年以前には、12/8日現在では、偽装があったことは(公には)確認されていません。

平成件数建築確認機関強度
11年2長野県
福岡市
未公表
12年6岐阜県
愛知県
岡崎市
京都府
大阪市
(財)日本建築総合試験所
未公表
13年10前橋市
伊勢崎市
日本ERI
荒川区
平塚市
長野県
松本市
愛知県
岡崎市
京都府
0.56
0.72
ほか未公表
14年2日本ERI
愛知県
0.73
ほか未公表
15年13群馬県
愛知県
日本ERI
イーホームズ ×10
0.3〜0.37×5
ほか未公表
16年15台東区
日本ERI ×2
イーホームズ ×12
0.26〜0.44×10
1件のみ0.78
ほか未公表
17年11日本ERI ×2
ビューロベリタス
イーホームズ × 8
未公表
不明3UDI確認検査 × 2
イーホームズ
未公表


強度についてはまだ地方自治体が調査している最中であり、未公表物件の方が多いです。しかし大まかに、過去の物件の方がマシで、偽装を重ねるに従い、姉歯氏の偽装が大胆に、なりふり構わぬものへと変化していることがわかると思います。

私がこの資料で言いたいことはひとつです。
姉歯氏が偽装に手を染めた初期、建築検査をしたのはすべて地方自治体(つまり公)の検査機関であった、ということ。
民であるイーホームズが審査を始めたのは平成15年になってから、日本ERIは13年になってから・・・です。
このことから、偽装の最初期にそれを見抜けなかった地方自治体の罪は重い、と指摘しておきます。ここで見抜いていたならば、姉歯氏がエスカレートするのを防げたかもしれませんからね。


現時点の私個人の感想ですが、官より民の検査の方が甘かった、杜撰だった、という傾向は、確かにあるのではないかと疑っています。強度0.3台などという物件を通してしまったイーホームズには、どんな弁解の余地もないでしょう。
ただし、官なら事件が起きなかったか、ということまで考えると、それも疑問に思う・・・というのが、正直なところです。

一方ではこんな例もあります。
【新たに「姉歯マンション」判明、最も古い偽装物件】
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe5500/news/20051208i113.htm
この物件はまだ報道段階であり、上記の表には含まれていませんが、偽装設計が行われたのは平成11年1月以前であり、建築確認をしたのは東京都、耐震強度は53%・・・だそうです。偽装はかなり巧妙だったようですね。

姉歯氏が、民間検査機関の審査する物件では、自治体検査の物件よりも大胆に(荒っぽく)偽装を行った、という可能性はありそうですが、そうすると逆に、公が審査する限り、偽装は巧妙に続き、永久に明るみに出なかった、という可能性もあります。
どちらがマシなのか・・・。判断の分かれるところでしょうね。

今回の事件を契機に、抜本的な対策が取られるならば、それ自体を民営化の成果である、と捉えることもできるでしょうし、それを日本社会や日本政府がなしえないのであれば、「小さな政府」理論は弊害の方が目立つ、という結果になりそうです

もちろん、上記はすべて12月8日時点で公表されている資料に基づく意見ですから、今後の調査結果次第では成り立たなくなる可能性もありますが。



【 住民保護・被害者救済 】

もうひとつ、検査機関民営化の問題点について。
http://homepage2.nifty.com/kekkanzenkokunet/

○最高裁平成17年6月24日決定
 民間確認検査機関による確認に関する事務は,建築主事による確認に関する事務の場合と同様に,地方公共団体の事務であり,その事務の帰属する行政主体は,当該確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体であるとしました。
 その結果,確認検査機関の検査ミスは,イコール地方公共団体のミスということになります。

○横浜地裁平成17年11月30日判決
 上記の最高裁決定の前提となった事件。上記の最高裁決定を引用したうえで,「被告検査機構が行った本件確認処分が原告らとの関係において,国家賠償法上も違法と評価され,その点に故意又は過失があって賠償を要するものであれば,被告横浜市は国家賠償法1条1項の「公共団体」としての賠償責任を負う」と明確に判示しました。
 判決の結論として,横浜市に対する請求は棄却されましたが,その理由は,「被告検査機構に故意・過失が存しない」からであって,「横浜市に故意・過失ががない」からだとしたわけではありません。「確認検査機関の検査ミス=イコール地方公共団体のミス」とした,画期的な判決といえます。


判例によれば、どうやら検査機関のミスは地方自治体が賠償責任を負う、ということらしいですね。
小さな政府の目的には税負担を減らすことも重要な柱としてあったはずですが、せっかく公務員を減らし、検査機関を民営化しても、そこがミスをするたびに公が責任を取って賠償していたのでは、かえって負担が大きくなります。
これは「小さな政府」政策の重大な欠陥でしょう。

むろん、政府もそれは自覚しており

一義的には売り主が責任を負っており、責任を誠実に実行してもらわないといけない

北側一雄国土交通相(http://sumai.nikkei.co.jp/special/gizo/index.cfm?i=2005120804555s8
としています。また早々とホテルへの被害救済はしない方針を打ち出しています。
野党側も、かかった費用は関係企業に追求するよう求めているようですね。
http://sumai.nikkei.co.jp/special/gizo/index.cfm?i=2005120608592s8

しかしいくら、あとで関連企業に請求するとしても、当の企業が倒産していたのでは絵に描いた餅に終わってしまいます。
業界全体を含めた保険の創設が強く求められます。

国土交通省は2日、マンションや戸建て住宅、ホテルなどの建築物の完成後に欠陥が見つかった場合の建て替えや改築費用を、建築業界全体で負担する新しい保険制度を創設する検討に入った。耐震強度偽装の被害が広がっていることに対応し、設計事務所や建築確認をする検査機関などにも加入を義務づける方向だ。

http://sumai.nikkei.co.jp/special/gizo/index.cfm?i=2005120205271s8


建築業界の不手際の後始末は、建築業界に負ってもらわねばなりません。また、こうした仕組み(一種の連帯責任)によって、建築業界の自浄能力を促すことも期待できるのではないでしょうか。
「小さな政府」政策の欠陥を繕うというだけでなく、建築業界の健全化のためにも、必要な措置だと考えます。

逆に言えば、こうした手当てなしに進める「小さな政府」政策は破綻しており、日本社会全体に混乱を招くだけの結果に終わるように思えます。

※関連エントリ

耐震強度偽装問題・・・意見・感想編
耐震強度偽装問題・・・資料編(12/6現在)
耐震強度偽装問題・・・資料編(12/2現在)
全裸で自殺・・・の謎 耐震強度偽装問題
posted by 水無月 at 13:18| Comment(5) | TrackBack(1) |   ◇耐震強度偽装問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。水無月様

>業界全体を含めた保険の創設が強く求められます
保険あるはずなんですけどね。
これからは、任意ではなく強制で保険加入が義務付けられるようになればいいですね。
利益が相反する保険会社がチェック機構など持てれば
このような事態も防げのでは?と、思います。

また、保証問題で、税金が投入されることは
納得がいきませんね。
もちろん、公的な責任もあるわけで、0%とはいきませんが
その他の問題で詐欺にあった人や
天災等で住む場所を追われたという条件は他にも存在するのですから(冷たい?
Posted by るか at 2005年12月11日 00:06
毎度お疲れさまです。

検査機関は「決まったところだけ調べる」と言ってましたが、そんなのアリ? って思います。
「条件自体をいじるなんて不正、天下の一級建築士ともあろうものがやるわけがない」
って、よく言えば性善説、悪く言えば愚鈍な検査姿勢だと思います。

大勢の人が住んだり泊まったりする巨大な建物を作るんだから、それなりの慎重さが求められるわけで、建築基準法を制定した時の初心にもどって謙虚に仕事してほしいですねえ。

イーホームズの社長が、民間だから表沙汰に出来た、みたいなことを言ってたと思います。公的機関だったら、隠蔽し通せたかもしれませんね。
隠さないと首筋がスースーする人がいっぱいいるでしょうから。
関係者の安全確保には力を入れてほしいです。口封じに「消され」ないように。

私は、建設を許可した自治体の責任はとても重大だと思います。天災で不可抗力だったのとは根本的に違う。
大地震さえなければ住めるかもしれないけど、小さな地震でも生きた心地がしないであろう被害者のみなさんは、ほんとにお気の毒です。

公的に守ってあげて、あとでその費用を原因となった偽装をした人たちに請求するのがスジってもんじゃないでしょうか。許可を出した自治体もその何分の一かは負担しなければならないと思います。
Posted by dashi at 2005年12月11日 13:25


コメントありがとうございます。

>るかさん

保険・・・私も調べてみました(軽くですが 汗)
確かにあるようですね。ただ、現行のものは任意で
それもおそらく、施工業者のみが加入するもので
検査機関や設計者は無縁のもの・・・のようです。
それではカバーしきれないから拡充を、ということなのでしょう。
保険会社によるチェック機能は私も強く期待するところです。
ただkanteさんによれば法的に難しいみたいですが・・・(汗
http://kante007.seesaa.net/article/10101000.html
(ご存知かもしれませんが同日のmixi日記のコメント欄も)

後半部分ですが、これはまさに今、ネット上でかなりHOTに
議論されている問題ですね。べつに冷たくはないでしょう。
小さな政府の自己責任論から言えば当然の反応かと思います。
まあ、小泉政権が試されているのでしょうね・・・。


>dashiさん

そうそう、性善説だったんですね・・・。
善意に解釈すれば、日本の検査機関が日本の設計者を信じていたわけで
それがここまで通っていたのは、日本人というのは基本的に
律儀で正直な国民性だ、という神話があったからなんでしょう。
少なくともモノ作りに関しては悪いことはしないはずだ、と。
しかし検査機関が「信じてたのに」なんて泣き言言っても
通るはずがないわけで(なぜなら検査するのが仕事だから)
やはり責任はきっちり取ってもらわなければならないでしょうね。
そして今後は騙されないで欲しいものです。それに尽きますね。

>大地震さえなければ住めるかもしれないけど、小さな地震でも生きた心地がしないであろう被害者のみなさんは、ほんとにお気の毒です

ここは現在、非常にデリケートな反応が起きてる部分でしょうね。
というのも、過去の阪神大震災や新潟地震で崩れた建物の中に
偽装物件が本当になかったかどうか・・・疑わしいからです。
同じく偽装部件に住んでいたと仮定した場合
かたや地震によって家を失い、家財道具を持ち出すことさえ
かなわなかったわけで、現在のヒューザーマンションに住む方々が
一応は命もあり、引越し先をあれこれ選んで普通に引っ越してゆくのは
それに比べれば相当恵まれている・・・とも言えるのですよね・・・。
つまり、今回の被害者の方々という弱者よりも、さらに弱者がいた
のではないかという疑惑・・・。
ここがスッキリしない部分だと思います。
下手をすれば、今回の被害者の方は「恵まれている」として
バッシングさえ受けてしまいそうな雲行きです。
今回の被害者の方に非は無いわけですから、そういう無用なバッシングから
守るためにも、国には筋を通してもらいたいですね。
それはdashiさんの言われる通り、具体的には、かかった公費を
最終的には税金でなく建築業界に負担してもらう、ということでしょう。
もちろん、自治体検査機関が偽装を見逃した責任もありますが
公費での救済が問題になっているのは(今のところ)ヒューザー物件
だけであって、それらに関して言えば、すべて民間検査機関が
建築確認をしているわけなので・・・。
Posted by 水無月 at 2005年12月12日 17:25
コメントありがとうございました。
阪神大震災で倒壊したマンションの中には、手抜き工事が原因とはっきりしているところもあるそうですね。先日テレビで言ってるのを聞きました。
そういうところは損害賠償請求出来るのかなと思ったのですが。今なら裁判になっても勝てそうですね。ただ時効とか気になりますし、根気と金のある人にしか出来ないでしょうけど、、、。

いつの時代も、救済に不公平感や運不運はつきものだと思いますけど、対象となる人もいったいどこまで膨らむかって感じだし、舵取りは難しいですね。

民間検査機関と言っても、委託したのは自治体だし(藤田社長が自分たちは「みなし公務員」だと言ってました)、公的な責任は同じだと思うのですが。

Posted by dashi at 2005年12月12日 18:08


dashiさん、こんばんは♪

>救済に不公平感や運不運はつきものだと思いますけど、対象となる人もいったいどこまで膨らむかって感じだし、舵取りは難しいですね

まったくその通りですね。
特に現在は(本当は現在に限らないでしょうけど)財政赤字が大きな問題に
なっていて、納税者である国民の目も非常に厳しくなっています。
今回の事件はこれだけ報道されて注目も浴びていますから
なおさら政府は「難しい舵取り」を迫られるのでしょう。

>民間検査機関と言っても、委託したのは自治体だし(藤田社長が自分たちは「みなし公務員」だと言ってました)、公的な責任は同じ

自治体が自ら建築確認をした物件と、民間検査機関が建築確認を
した物件とでは、公の責任の重さは異なるだろう、というのが
私の考えです。
ただ、この記事の中でも書きましたが、民間検査機関であっても
公はまったく責任がない、というわけではない、というのが
司法の判断ですし、公もそのように動いていると思いますよ。

民間検査機関の検査した物件(ヒューザー)の場合
やはり一義的には、それに関わった設計者、施工者、建築確認者、などが
責任や負担を負い、そこで(企業の倒産などで)カバーしきれない分を
国が負う・・・という程度が妥当なのではないでしょうか・・・。
Posted by 水無月 at 2005年12月12日 19:39
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