2006年03月13日

ピアチェックは可能か?

【 ピアチェックって? 】

まず、ピアチェック(またはピアレビュー)ってなんでしょう?

【NPO法人 "建築技術支援協会"PSATS (サーツ)】の
【●NHK教育テレビ12月8日放映「視点論点」
 「耐震偽装/構造的な問題と今後の提言」の草稿 掲載 米田雅子】
 http://www.psats.or.jp/katsudou/shitenronten.html
によれば、それは「プロの構造設計者がチェックする仕組み」だそうです。

耐震強度偽装問題にはさまざまな観点があるでしょうが、結局のところ問題点(解決法)は次の二点に集約できると思います。

  @ 再発防止策
  A 再発した場合の手当て

ピアチェックは、このうちの@への、ひとつの「解」なのでしょう。
私自身も、この問題の根本には、

  設計者のスキル > 検査機関のスキル

という問題点があると感じています。スキルには時間も含みます。検査機関の中には、構造の専門家を置いていたところもあるでしょう。しかし、審査を受け付ける件数に比べ圧倒的に人数が少なかったために、建築確認審査は形骸化し、言わば書類(の有無)をチェックするだけ・・・のような実態になっていたようです。
(例1 たとえばイーホームズ社はこのように述べています。
 「法が求める確認という行為は、法定期限内で、申請図書の全てを点検し、再設計や再計算までの検算をする義務を求めるものではない」)
(例2 ほかにも、確認審査をした自治体が偽装事件発覚後の再検査を自力でできずに民間の検査機関へ依頼した、当初確認検査時に構造計算書のエラー表示を見落としていた、などの事例から検査機関の検査能力が根本的に不足していたことが明らかとなっています)

官と民とを問わず、そもそも検査機関側に検査できるだけのスキルがなければ、設計士の高度な偽造であれ単純なミスであれ、それを見つけ出すことは絶対にできません。

こうしたことを知ると、構造設計を検査できるのは構造設計者だけだということになり、ピアチェックの重要性・必要性が切実に感じられてくるのです。



【 ピアチェックの具体化案 】


まず報道資料から。

【構造計算書、第三者機関で再点検…国交省方針】
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe5500/news/20060222it06.htm
 耐震強度偽装事件で、社会資本整備審議会(国土交通相の諮問機関)の「基本制度部会」は22日、構造計算書改ざんを見抜けなかった現行の建築確認制度を抜本的に見直し、一定規模以上の建物について、新たに設立する第三者機関が構造設計を再点検する「ピアチェック」の義務化などを柱とする再発防止策をまとめた。

 第三者機関は、必要に応じて建築士から事情聴取を行うなど厳格に点検し、審査をパスしない限り建築確認が下りない仕組みとする。国土交通省は早ければ年内の設立を目指し、近く、建築基準法などの改正案を提出する方針だ。

 構想では、新たな第三者機関は、外部の構造設計専門家を起用、耐震強度基準を満たす設計になっているかどうかなどを再点検する。姉歯秀次・元1級建築士(48)は書面の差し替えなどで改ざんしていたことから、現在は書面で提出させている構造計算過程は電子データで提出させ再計算する。場合によっては設計者からの事情聴取も行い構造計算の偽装やミスを防ぐ。

 ピアチェックとは、専門家による二重チェックで、義務付ける対象は、高さ5階程度以上のビルやマンションのほか、病院など公共性の高い建物とすることを検討している。第三者機関は、既存の国交省関連団体をもとに組織する方向だ。

 このほか再発防止策には、▽新築マンション、戸建て住宅の欠陥に備えた保険加入などの義務化▽建物の完成前に自治体などが現場でチェックする「中間検査」の義務化▽強度不足の建物を建てさせた建築士・施工者らに懲役刑を科すなど建築基準法などの罰則強化――などを盛り込んだ。
(2006年2月22日14時35分 読売新聞)



ということなので早速国交省資料で「柱」の部分を見てみます。



【建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について 中間報告】
平成18年2月24日発表
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/07/070224_4_.html

(前略)

4.建築物の安全性確保のため早急に講ずべき施策
 (1) 構造設計図書の建築確認時の審査方法の厳格化
  @構造設計図書の審査方法の見直し
    構造設計図書の審査は、審査方法を法令上の審査基準として
    定め、次の方法により厳正に行う必要がある。
    1)一定の高さ、一定規模以上の建築物等については、建築主
    事、指定確認検査機関が審査基準に従って入力データの審査、
    構造詳細図と断面リストの照合等を行うとともに、第三者機
    関における構造計算の適合性の審査を義務付ける。第三者機
    関においては、構造の専門家等が構造詳細図及び構造計算書
    を用いて計算方法、計算過程等の審査を行う。
     ただし、国土交通大臣の認定を受けた構造計算プログラム
    を用いて構造計算書等を作成した建築物については、建築確
    認申請時に入力データ(電子情報)を添付させ、構造の専門
    家等により構造計算プログラムの適用範囲内であること、入
    力内容に関する考え方などを審査の上、再入力し、計算過程
    における計算ミス又は偽装の有無についてチェックを行う。
    この場合、構造の専門家による計算過程の審査を簡略化する
    ことができる

    2)その他の建築物については、審査基準に従って、建築主事
    や指定確認検査機関が厳正に審査を行う。
  また、第三者機関のシステム面や運用面のセキュリティの確保を
 図るため、適正な対応策や実施体制について検討する必要がある。

(後略)



う〜ん。これ、良さそう? それともダメそう?? というあたりで長らく考えていたのですが、特に気になるのは上記内の青字で示した部分です。

  ただし、国土交通大臣の認定を受けた構造計算プログラムを用いて構造計算書等を作成した建築物については、 ← 前提条件ですね
  建築確認申請時に入力データ(電子情報)を添付させ、 ← いいね
  構造の専門家等により ← ここがピア(同業者)だ!
  構造計算プログラムの適用範囲内であること、 ← うむ
  入力内容に関する考え方などを審査の上、 ← なるほど
  再入力し、計算過程における計算ミス又は偽装の有無について ← お!
  チェックを行う。  ← 素晴らしい!!
  この場合、  ← ん?
  構造の専門家による計算過程の審査を簡略化することができる。 ← はぁ?


あまりにも「はぁ?」だったので、これをどう解釈するかで、相当考えてしまったわけですが、結局こういうことだと思います。


まず、建築確認申請時に入力データ(電子情報)を添付する。
次に、構造の専門家等
 ・構造計算プログラムの適用範囲内であること
 ・入力内容に関する考え方
などを審査する。
そして
 ・再入力し、計算過程における計算ミス又は偽装の有無についてチェック
の部分は、やらないか、または構造の専門家でない無資格者が行う



想像ですが、おそらく、図面や書類をプロの目で見て、なにかおかしいと感じた場合には再計算までしてみる、そのために念のため電子データも提出させる、そういうことなのだろうと思います。



【 ピアチェックは可能か? 】


実際のところ、前項【ピアチェックの具体化案】のような事態を、私はある程度予想していました。
というのも、単純に考えると、ピアチェックとは要するに、一定階数や一定規模以上といった条件の建築物に関して、日本全体における構造設計者の全作業件数を2倍にする、ことだからです。もちろん、設計本来の作業量と検査の作業量とを比べれば、前者の方が多いはずです。だから作業量(作業時間)自体が単純に倍加するとは言えないかもしれません。しかし相当に増えることだけは確かです。構造の専門家とは私の理解によれば、一級建築士の資格を持ち実務で構造設計に携わっている人、です。
こうした人が何人いるか知りませんが(参考・・・JSCA=日本建築構造技術者協会の正会員は2003年6月現在で3566名)、実務で設計に携わっている人・・・とは当然、日々自分自身の仕事をしているはずなのです。建築事務所へ勤めて実務で設計をしている人が、同業者の設計物をもチェックする、それがピアチェック本来の発想のはずです。自分で設計する人だからこそ、プロならではの目を持つはずだ、と期待しているのですから。
ところで、構造設計の実務者達にその時間的余裕があるのでしょうか・・・ね?(汗

私が一番に感じた疑問はここでした。そもそも、建築確認検査機関の審査が形ばかりのものになっていた原因も、突き詰めれば人手不足・人材不足だったはずです。
同じことになってしまわないでしょうか?

このピアチェックを有効に活用させるためには、最低でもふたつの条件が満たされなければなりません。

 @ 十分な専門家の数(時間も!)の確保
 A ピアチェック部分の検査料増額(専門家への報酬の確保)

Aは単純に経済的な問題ですから、その気になればクリアできると思います。最終的な消費者である住宅購入者や建築主も、制度の必要性を理解できれば納得してくれるはずです(もちろん、そのために社会へ理解を広める努力が国や行政や建築業界側にも求められるわけですが)
しかし@の方は、一朝一夕には解決しません。一級建築士や建築構造士の資格を乱発されても困りますし、これまでほとんど構造に携わっていなかった意匠建築士や引退建築士などが、突然「構造の専門家」の看板を掲げるようなことでも困ります。
となれば、検査は極力効率的になされる必要があるわけです。


また、構造計算プログラムは106種類あるそうですね。この中には当然、あるプログラムではOKでも、別のプログラムではNGである、というようなことが起こりうるでしょう。
チェックする専門家が設計で使用されたプログラムを知らない(利用できない)、という事態も考えられます。その場合にはどうするのでしょう。たとえば予めチェック可能なプログラムを第三者機関へ申告しておき、該当するプログラムの設計だけをそこへ割り振るのでしょうか、それとも割り振りは機械的に行い、もしチェックできない設計だった場合には図面や書類上の設計を目や頭や手計算で審査するに留めるのでしょうか・・・。
そう考えると、「再計算を簡略化」も十分予想できたわけです。(逆に、チェック可能なプログラムだけを引き受ける割り振り制度を考えると、使用者の少ないプログラムを利用した場合、設計者と検査者がごく少数の集団になってしまい、検査を繰り返すうちに顔見知りになってしまう、すなわち第三者とはいえなくなる、という弊害も予想できます)


専門家によるチェック、とひと口に言っても、その実現は極めて困難です。


さて、以上は私の素人考えですが、では当のプロの皆さんはどう主張しているのでしょう?
というわけで、JSCAを見てみました。

【建物の構造性能確保に向けての提言】
 2006 年2月14 日 (社)日本建築構造技術者協会 会長 大越俊男
http://www.jsca.or.jp/vol2/23news_release/2005False/jsca20050214-1.pdf

(前略)
2.構造設計の審査方法の提案

 1)計算プログラム偏重より設計内容の精査が不可欠
  構造計算は構造設計の検証に過ぎない。審査すべきは設計内容であり、計算プログラムの使い方に論点が絞られるのは危険な兆候である。偽造の発見はもとより重要であるが、それだけでは不十分であり、設計内容の精査こそ健全な社会資産である建築物の創造には欠かすことはできない。

 2)大臣認定プログラム制度は廃止すべき
  大臣認定プログラムはコンピュータが一般化した今日、その役目を終えているだけでなく、審査者が過度に依存するという弊害を生んでいるので、廃止を含めた制度見直しを行うべきである。

 3)再計算によらないチェック方法
  JSCA では行政や民間からの依頼を受けて構造設計のチェック作業を行ない成果をあげている。構造設計の審査は、基本的な数値の整合性の確認や略算的な手計算によることで可能であり、必ずしもデジタルデータ提出による再計算を行なう必要はない。

 4)審査マニュアルの策定
  単純な再計算は審査が形式化する危険性を含んでおり、あらゆる審査機関で設計内容の精査ができるシステムを目指すべきである。審査方法はまずこれをベースとする。そのためには構造設計のチェック方法、審査マニュアルの策定が急務であるが、JSCA はそれに全面的に協力し、行政や民間機関の審査員のレベルアップへの協力体制を構築する。

 5)第三者審査の採用
  第三者の審査を行なうことは意義があり、JSCA が主張してきたピアレビューに相当する。
  前項のルートに加え、規模や用途などで区分して特殊な建物を定め、第三者審査を義務付ける。実際の審査は設計実務経験者が行なう必要があるが、JSCA の建築構造士は多くの建物の設計検証を行なった実績が十分にあるため、審査に協力することができる。但し、その前提として、設計者とレビュアーの責任分担や保険との関係を整理することが不可欠である。



JSCAはもともと再計算を推奨しているわけでも、実践しているわけでもないようです。
(とすると、国交省が毎度発表している「Qu/Qun」値の根拠は? となるわけですが)
JSCAの主張は、国交省の中間発表にあった「構造の専門家による計算過程の審査を簡略化することができる」の一文とも矛盾しません。むしろ、国交省の中間発表はJSCAの見解を踏まえているのかもしれませんね。



【 ま と め 】


というわけでまとめです。

国交省の再発防止策で想定されているピアチェックでは再計算はしません

というか、たぶん全件の再計算はできないが、実情だと思います。
JSCA(日本建築構造技術者協会)は再計算無しで大丈夫と主張しています。

本当に大丈夫かどうかは、私には判断できません。


※関連エントリ・・・【耐震強度偽装問題カテゴリー


 
posted by 水無月 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(1) |   ◇耐震強度偽装問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「ピアチェック」は実在するのか?
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